Changed on April 11th, 1999.

このサイトでは、'96年9月1日発行BLUE RECORD#023に掲載予定の記事、及びホームページ用に追加した情報を紹介しています。

ロックバンド“ソー・マッチ・トラブル”のステージ。

7月24日(木)のライヴでは、オリジナルメンバーの山川健一(Vocal, Harmonica)、小沢 勝(Guitar)、岩橋弘士(Keyboard)に加え、神谷茂巳(DRUMS)と池上 弦(BASS)がサポート参加。<敬称略>

 '97年7月24日(木)、西荻窪のライヴハウス・ワッツにて“山川健一&ザ・ソー・マッチ・トラブル”“X-レイテッド・ムービーズ”“山本慎也ブルース・バンド”のライヴが行われた。前日までにBLUE RECORD8月号の原稿とFMの収録を済ませたぼくは、当日、昼前の新幹線に乗り込み東京へと向かった。過去に、わざわざ東京までライヴを観に行くなんてことはなかったのだが、今回のライヴにはぼくを駆り立てるとても興味深い経緯があった。それは、とてもエキサイティングでハッピーな、まるで夢のような経緯だった…。

 4月の末にはじめて自分のホームページを作ったぼくは、5月初頭から世界中に散在する音楽系ホームページ(以下 HP)を次から次へとネットサーフしてまわった。ロックからブルース、ブラジル音楽、アラビア音楽、インドネシア…といった感じで、ジャンルを問わず世界中の音楽系HPに訪問し、ただ無心に未知なる音との出会いを求めていた。インターネットというメディアを通し、未踏の音楽文化に触れることは、ぼくにとって一種のカルチャーショックですらあり、それは次第にプライベートと仕事、その両面で必要不可欠な行為となってしまった。

ドラムの神谷さんは、元スタジオミュージシャン。「曲の進行表とデモテープを渡されてスタジオに入ったことはあるけど、リアルオーディオのファイルでコピーしたのは初めてだよ。バスドラの音なんて、全然聞こえなかったんだよ」と笑顔で話してくれた。

現在、静岡で『サマディー』というサーフショップを経営している。

 6月23日(水)午前3時、ぼくは不思議なHPへと足を踏み入れていた。そのHPの名前は『BE HAPPY!』、ロック・シンガーとしても知られている作家・山川健一さんの運営するサイトだ。シンコーミュージックから発行されている“ルーディーズ・クラブ”という音楽誌で見つけたHPアドレスを直接ネットスケープ・ナビゲーターに打ち込んでやると、そのロック・スピリッツあふれる終わりなきハッピーな世界が開かれていた。ぼくはマウスをクリックしながら、HP内の各ページを巡回してまわった。そこには、ぼくが過去に訪問したどのロック系HPにもなかった独特のカラーがあふれており、HPの制作過程における作り手の情熱さえも垣間みることができた。一生懸命にプレイしているロックバンドのステージを観ているとからだの奥底からエネルギーが湧き出してくるのと同様、作り手側が制作時に情熱や愛着を注ぎ込んだHPというのは、見る者を不思議とエネルギッシュな気分にさせてしまう。段落の冒頭に書いた“不思議なHP”というのは、“不思議と元気の出てくるHP”という意味なのだ。

注目のベーシスト“弦ちゃん”こと池上君。ライヴ開演前には、ぼくと一緒に、ホール入り口にて、BBSで待ち合わせた“白いパンツの女の子(ハンドルネームは、ゆうたん)”を探してくれた。が、ゆうたんはすでにホールの中にいた!! 思い出すと、妙に懐かしい。

このページの記事を作るにあたり、参考資料をE-mailに添付して送ってくれた。弦ちゃん、ありがとう。本当に、たすかったよ!!

 6月11日(水)から23日(月)、山川さんはロンドンにいた。留守中、「ロンドン日記」と題したメッセージを、ロンドンから『BE HAPPY!』内のBBS(掲示板)にアップロードしていた。帰国後も毎日のように自分のメッセージをBBSに書き込んでいた山川さんから、7月17日(木)、BBS来訪者に向けての「HELP」メッセージが投げかけられた。そこには「7月24日“ソー・マッチ・トラブル”のライヴメンバー急募」といった内容が記されていた。これは、まさにインターネットという媒体を介してのヘルプサインだった。そして、その日を境に、BBSは熱くデッドヒートしていった…。

 BBSを通じて、ドラムに静岡在住の神谷茂巳さん(ハンドルネームは“Kamiya”)、そしてベースには東京都在住の池上 弦君(ハンドルネームは“gn-ikgm”)が名乗りを上げた。が、もうライヴまでに時間はなかった、タイムリミットはわずか1週間だ。急遽、HP『BE HAPPY!』のトップページには当日プレイされる6曲が山川さんの手によりリアルオーディオ・ファイルとしてアップされ、2人はそのファイルを遠く離れた地でそれぞれのコンピュータにダウンロードし、マッキントッシュのスピーカーから流れだす曲をコピーしていったという。もちろん、それらのファイルから流れる6曲は、彼らがはじめて耳にする楽曲だった。それと同時進行で、BBSにはコード進行表が数時間おきにアップされていった。それは“ソー・マッチ・トラブル”のメンバー、岩橋弘士(Keyboard)さんの手による力作だった。テキストファイルに記述したコード進行表を、コピー&ペーストでBBSのメッセージボードに貼り付けたという。1週間の内、メンバーは1度だけ都内のスタジオで4時間だけのリハーサルの場を設けた。そして、いよいよ本番だ。

“X-レイテッド・ムービーズ”のステージ。ツインのギターでプレイされたストーンズの「GIMME SHELTER」は迫力満点。スピード感あふれる“切れた演奏”が印象的だった。新曲「Hate」を含む、全5曲が披露された。

写真左端のギタリスト中村さんは『Kawasaki Rock Web』というHPを運営している。

音楽誌『ニュー・ルーディーズ・クラブ』では、筌尾さんのロックな文章が楽しめる。

 7月24日(木)、ライヴ当日の朝までBBSは燃えていた。自らの緊張感を伝える、神谷さんや池上君の書き込みに加え、ネットを通して彼らを応援する人たちからのメッセージが次から次へとアップされていた。もちろん、BBSをチェックしていた人たちの何人かは当日のホールへ足を運ぶことになるのだが、みな、互いの顔は知らない。「白いパンツで行きます」「ストライプのスーツで行きます」といった感じで、自分の目印を記述したテキストが次々とBBSにアップされていった。ぼくは、「茶系のアロハとジーンズで行きます」。朝方、そう書き込み、昼前の新幹線で岡山を発った。

 17:00、ライヴハウス・ワッツ、重い鉄の扉を開くと、照明を落としたホールの中で開演前のリハーサルが行われていた。すぐさまステージに目が行き、ぼくは山川さんを探した。眼鏡を外していたせいか、ステージ上でテレキャスターを抱えたパーマヘアのギタリストを山川さんと間違えてしまった。が、すぐに間違えに気づいた。テレキャスターのギタリストは、バンド“X-レイテッド・ムービーズ”の筌尾 正(うけおただし)さんだった。筌尾さんは『ギターをめぐる冒険』の著者でもあり、度々音楽誌でそのコラムを目にしていた。「本物の筌尾さんが、目の前でギターを弾いている!!」そう思うと、いきなり緊張が高まり、喉がカラカラに乾いてしまった。そして…。

“ソー・マッチ・トラブル”ヴォーカリスト・ヤマケンこと山川健一さんと、ギタリストのマサルさん。「BBSって何?メールのこと?」と真顔で言っていたマサルさんだが、ステージでのロックスピリッツには圧巻させられた。マッキントッシュを愛する山川さんは、7月に中央公論社より小説『アップル・ジャム』を発表している。

 ホールの端には、アニエス.bのTシャツを着た山川さんが立っていた。今度こそ見間違えではなかった。すぐさま挨拶に行き、握手を交わした。が、この瞬間、頭の中に用意していた“取材時の質問コメント”(前日、電子メールにて取材許可をもらっていた)の内容は、きれいさっぱりどこかに消えさってしまった。「リハーサルが終わったら、お茶にしようぜ!」山川さんのその言葉を、ぼくは取材に来たライターとしてではなく、憧れのアーティストに対面したファンの心境で耳にしていた。

 リハーサル後に入った喫茶店では、神谷さんと池上君を迎えた“ソー・マッチ・トラブル”、そして“X-レイテッド・ムービーズ”のメンバーと一緒だった。はじめて見る神谷さんと池上君は緊張した面持ちで、紙に書いたコード進行表を頭に叩き込んでいた。“ソー・マッチ・トラブル”のギタリスト・小沢 勝さんが、「ゲン(池上君の愛称)、間違ってもいいから、思いっきり弾けよ!」と元気づけていた。その後「おれも、コード進行なんて覚えてねーよ」と小沢さんは言っていたが、それがマジなのかジョークなのかは分からなかった。が、リハーサルのとき、小沢さんの弾いていたゴールドのレスポールのチューニングが狂っていたことだけは確かだった。

ライヴ終了後は、BBSの“オフ会”を兼ねての“打ち上げ”となった。「オフ会って何?」と訊ねたところ、「ネット上でやりとりするのがオン。こうやって実際に会うのがオフ」と教えてもらった。

たくさん写真を撮ったにも関わらず、使える写真がコレしかないってとこが恐ろしい。ちなみに、隣のテーブルには“X-レイテッド・ムービーズ”の筌尾さんや“ルーディーズ・クラブ”編集部番長の藤竹さんがいた。

酔っぱらった山川さんは、その場に居合わせた男性陣を一人づつ裸にしていったのだが、腹が出ていたのはぼくと藤竹さんだけだった。藤竹さんには胸毛もあった。さすが、番長! シブイっす!!

 21:00、ロックバンド“ソー・マッチ・トラブル”のメンバー5人がステージに立った。重量感たっぷりのビートに、太いレスポールの音が絡みつき「Me and My Car」のイントロが流れはじめる。と同時に、狭いステージを最大限に活かしたヴォーカリストのパフォーマンスが満員の観客を釘付けにしてしまった。ライヴホールのボルテージは急加速で高まってゆく。目に見えない導火線に火が点けられ、その炎がバチバチと音を発てて弾けているようなステージだった。「このまま駆け抜けろ!」ぼくは心の中でそう叫んだ。

 デジタルと現実が融合した幻のような空間に身を置き、ぼくははじめて味わう得体の知れない興奮を噛みしめ、発火した“ソー・マッチ・トラブル”のステージを心に焼き付けていた。側には、“白いパンツの女の子”と“ストライプのスーツの男性”が立っていた。

 TEXT/HAJIME YONEDA

『 Yamaken's BBSband LIVE Movie』

http://www.yamaken.com/BBSband.html

ここで、当日のライヴムービー(Movie by HIROSHI IWAHASHI)や、
ベーシストの弦ちゃんの書いたテキストが楽しめるよ!!

取材協力

Watts(東京都杉並区松庵3-39-11第一斉木ビルB1F、03-3332-7652)

ソー・マッチ・トラブル & X-レイテッド・ムービーズ

『BE HAPPY!』http://www.yamaken.com/


Copyright 1997-1999 by BLUE RECORD. All Rights Reserved.