BLUE RECORD#077 (2002年3月1日 発行号)

『内田裕也を噛みしめろ!』
怒涛の主演3部作、待望のDVDでリリース!

文・世良利和(mail to:sera-t@d8.dion.ne.jp / Web Site『オルカ書房』

 ナベプロに所属していた内田裕也が映画でチョイ役を演じ始めるのは、主に東宝のプログラム・ピクチャーというメジャーな場所でのことだった。けれども内田にとって映画が片手間ではなく、自覚的な表現としてはっきり手応えを持つようになるのは、作品の配給もままならない低予算の独立プロやピンク映画の現場においてだ。このあたりはいかにも内田らしい感性だと思うが、そうした場所で彼はほかの役者には出せない独自の存在感を見せつける。その集大成となったのが神代辰巳監督の秀作『嗚呼!おんなたち 猥歌』での、ジョージという売れないロック歌手の役だった。これ以降も内田は映画への傾斜を深め、単なる出演者の枠を越えて企画や製作にまで踏みこみながら、『水のないプール』『十階のモスキート』『コミック雑誌なんかいらない!』という怒涛の主演3部作を放つに至る。この3タイトルは長い間ビデオもLDも廃盤状態だったが、昨年の末にやっとDVD版がリリースされた。いずれも副音声には監督とプロデューサーによる長時間対談が入り、さらに内田裕也の最新インタビュー映像まで収録されているではないか。これを買わなきゃ、生きている意味なんてほとんどないぞ!


 最初の『水のないプール』の主人公は中年の地下鉄職員だ。毎日改札に立って切符を切り、家に帰れば口うるさい妻と子どもが待っている。演じる内田の制服姿が実によく似合っていた。やがて男はクロロホルムを使って若い女たちの部屋に侵入し、夜毎レイプを重ねるようになる。秘めやかな夜の世界を手に入れた男の行為は、同時に都会に暮らす女たちの寂しさを照らしだしてゆくのだ。この映画は仙台で発生した実際の事件をもとにしており、内田自身が若松監督のところへ企画を持ちこんで、脚本は内田栄一が担当した。ありふれた社会批判やつまらない犯罪映画に終わることなく、ちゃんとしたピンク映画にもなっているあたりはさすがに若松監督だ。ほとんどセリフのない長回しの連続を、見事に撮り切っている。もちろん内田裕也と若松監督の間には何度も揉め事が発生し、内田がトイレに立てこもったり、椅子を蹴り倒して帰るという場面もあったらしい。そもそもこの顔合わせでは、むしろ揉めないほうがどうかしているよなぁ。単なるわがままや身勝手ではなく、お互いにはっきりとした主張や自負があるからぶつかるのだ。最近はこういう役者や監督が減ったが、遠慮と馴れ合いと自己満足の産物では、ガツンと観客に訴える迫力もない。


 続く『十階のモスキート』も、京都などで頻発した警官の不祥事にヒントを得て、内田が崔洋一に企画を持ちかけ、二人の共同脚本となった作品だ。制服警官の犯罪という内容のせいか、完成から半年以上たってもなかなか公開が決まらなかったという経緯もある。内田がうだつのあがらない交番勤務の中年巡査に扮し、公務用の重たい自転車をこぐ姿に哀感を漂わせている。この巡査は別れた妻に養育費をむしり取られ、娘にはオヤジさんと呼ばれて小遣をせびられ、昇進試験には落ち続け、職場では同僚たちに煙たがられている。どんどん追いつめられてゆく男の内面を、内田の無口な表情がリアルに映し出していた。やがてサラ金の返済に困った男は、制服のまま郵便局に押し入って発砲し、金を出せと暴れる。最後は捕まりながら万札を噛みしめるのだが、このあたりの内田の表情はすでに演技の枠を超えていた。それと郵便局のガラスを割るシーンで、内田がマジで痛そうな顔をするのが笑える。崔監督もケンカ早いことで知られているが、内田は年下の新人監督と撮影現場で揉めるようなヤボはしなかった。その代わりと言うわけでもないのだろうが、作品の一般公開が決まった直後に、ちょっとした事件を起こしている。ウドー音楽事務所に包丁を持って押しかけ、自分で「内田裕也という男が暴れている」と110番通報し、駆けつけた警官に逮捕されたというのだ。うーむ。


 上記2作のタイトルは内田が考えたものだが、最後の『コミック雑誌なんかいらない!』だけは頭脳警察の曲名からとられている。内田が演じる主人公の木滑は、理想は高いが口下手で嫌われ者のTVリポーターだ。映画は'85年当時の社会風俗や流行、事件、芸能スキャンダルなどを片っぱしから拾い集めており、ドキュメンタリーになっている部分もあれば、パロディや再現フィルムになっている部分もある。ときには出演者が本人の役で出演しているから、どこまでが本当の話でどこからが演技なのか、見分けがつかないこともある。内田が「ロックのことなんかわからへんくせに」と桑名正博にからまれる場面もあるし、おニャン子クラブの取材では照れた表情を浮かべている。この企画も内田がピンク監督の滝田洋二郎に声をかけたらしいが、滝田はマスコミがタレ流す情報の過剰と欠乏を、持ち味の軽いコメディ調でテンポ良く描き出している。内田自身も実際に成田空港で三浦和義への取材に加わってもみくちゃにされたり、山一抗争の最中に神戸で組事務所に突撃インタビューを試みて追い返されるなど、本職のリポーターも顔負けの奮闘ぶりだった。
 こうして主演3部作を振り返ってみると、この時期の内田裕也がどれだけ性根を据えて映画に取り組んでいたのかがよくわかる。いずれも自ら資金調達に駆け回った低予算映画ながら、20年近く経った今でもまったく鮮度が失われていない。内田ならではのキャスティングの数々も楽しめる。'80年代前半の日本映画には、内田より演技のうまい役者は山ほどいたはずだが、彼以上にパワフルで、新しく、本気だった奴が果たして何人いただろうか。思えば崔洋一も滝田洋二郎も、この内田との仕事をきっかけにして新しい場所へと進んで行ったのだ。


 ところで内田裕也は、この1月にレンタル開始された小澤啓一監督の『修羅のみち2』で、Vシネマに初出演している。内田自身がどこかで言っていたように、現在の邦画をめぐる状況の中では映画もVシネマもない。結局は作品の出来がすべてなのだから、才能のある監督にはどんどんビデオ作品を撮ってもらいたい。勘違いしたプロデューサーの下で、くだらない映画を撮るよりはよほどましではないか。おっと、話がそれてしまったが、その『修羅のみち2』で内田が演じているのは、前作『共犯者』と同じような敵役のヒットマンだ。けれども、その存在感はまるで違っている。前作では不気味な殺し屋をカッコ良く演じようとし過ぎていたが、今回はそうした色気が抜けていた。左手に鋼の義手をはめ、金髪をたなびかせた内田が登場すると、そこだけ異次元が広がって近未来的なムードが漂う。義理と人情、意地と欲望に縛られたヤクザたちの血で血を洗う抗争劇の中で、感情をあらわにしない無表情な内田だけは、まるで宇宙人のように飄然として映るのだ。高級クラブでレモンティを注文するトボケぶりも見逃せない。


 旧主演作のDVDリリースに久しぶりの新作出演と、内田裕也の流れが再び映画に向かっているようだ。そろそろ新しい主演作が観たいと思っているのは、たぶん俺だけじゃないはずだ。どうせやってくれるなら、できるだけカッコ悪い役がいい。誰かシナリオを書いてぶつける奴はいないのか? 内田裕也のオスカー受賞が実現したら、皆で受賞スピーチを聞きにロスへ行こうぜ! Rock'n Roll!


TEXT by 世良利和
ALL PHOTO by PIONEER LCD, INC.


  

  • DVD 『水のないプール デラックス版』 価格:¥4,700(税抜) 発売元:パイオニアLCD
  • DVD 『十階のモスキート デラックス版』 価格:¥4,700(税抜) 発売元:パイオニアLCD
  • DVD『コミック雑誌なんかいらない! デラックス版』 価格:¥4,700(税抜) 発売元:パイオニアLCD

  • 内田裕也オフィシャル・サイトにアクセス! バイオグラフィー・ディスコグラフィー・フィルモグラフィーのページをはじめ、レアな近影写真や『ROCK'N ROLL BaKa』のパンフレット写真(at NIPPON BUDOKAN)もあり。

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